家に着くころにはすっかり夜になっていた。
廊下を抜けリビングのドアを開けると、台所に母と兄の直樹が並んで立っていた。
ふたりしてギョーザの皮を包んでいる。

「社会人より帰りが遅い学生ってどうなのよ」

笑いながら言う母に、

「そうだそうだ。たまには料理くらい手伝え」

直樹が同意している。お揃いのグリーンのエプロンがふたりともよく似合っている。

「お兄ちゃんがヒマすぎるの。学生はいろいろと忙しいんだから」

「あら。直樹だって忙しいのに手伝ってくれてるのよ」

すかさずフォローを入れてくる母に、
「はいはい」
素早く手を洗うと、さすがに少し水も冷たくなっている。渡されたタオルで手を拭くと、私もギョーザ作りに加わる。

「忙しい理由がデートならいいけどな。芽衣は十七歳にもなって彼氏のひとりもできやしない」

わざと悲しい顔をして言う直樹に私は膨れてみせる。

「人のこと言えないでしょ。お兄ちゃんこそ、浮いた話ひとつもないじゃん」

「しょうがないだろ。出張ばっかで出逢うヒマもねぇし」

「あらあら、私の子供たちはモテないのねぇ」

大げさにため息をつきながらホットプレートに油を敷く母。
餃子を並べてから電源を入れるのがポイントで、やがて香ばしい匂いが生まれる。
焼き色がついたころを見計らって、直樹がカップに入れただし汁を注いで蓋をすると、透明のガラス蓋は一瞬で湯気色に染まった。

餃子は我が家の人気メニューのひとつで、私でも作りかたを覚えてしまうほどよく食卓に並ぶ。
蒸し焼きにするとき、水の代わりにだし汁を使うのが母のレシピ。
カロリーは高くなるけれど、味に深みが出るのはたしか。