【SideA 香織の日記】


9月20日(日)

中学生になって半年。

今日でわたしは13歳になったの。

帰るときに、クラスメイトのわん君に呼ばれた。

なんの用かと思って体育館の裏についていった。

いつもはおしゃべりのわん君なのにすごく怖い顔をしていて、なにか怒っているのかと思った。

そしたら……なんと、告白されたんです!

すごくびっくりして何回もうなずいちゃった。

だって、わたしもずっとわん君のことが好きだったから。

こんなことが起きるなんて信じられない!

今、日記を書いていてもドキドキしている。

誕生日に大好きな人から告白されるなんて!

あー、幸せすぎる。
3月20日(日)

あっという間に春休み。

今日でわん君とつきあって半年記念日。

もう半年なんて早いなあ。

わん君とは小学校のときに何回か同じクラスになって、最初にわたしのほうが好きになったと思う。

気づけば好きだった、みたいな感じ。

そんな人に告白されて恋人になれたなんて今でも信じられない。


わん君は変わらず、ずっとやさしいままだよ。

いつだってわたしだけを見てくれている。

そばにいると安心するし、すごく落ち着く。

あと少しで中学2年生になる。

高校も「一緒のところに行きたい」って言ってくれた。

きっとわたしたちはこのまま同じ高校に入って大学生になっても一緒だよね。

会社も同じで、きっと結婚もするはず。

こんな幸せな毎日が、ずっと続きますように。
9月20日(火)

今日は誕生日。そしてつき合って1年の記念日!

…といっても、いつもと同じ日。

学校でも、わたしたちがつき合っていことを知っている子は少ないんだ。

だって恥ずかしいし……。

あ、わん君からさっきメールがあった。

夜中にこっそり家を抜け出して会うつもり。

今からたのしみ~。


だけど、ちょっとだけ気になることがあるんだよね。

家に帰ってきたら、ポストのなかに赤い封筒が入っていたの。

あて先のところに住所は書いていなくて、『佐々木香織様』ってわたしの名前がキレイな字で書いてあったんだ。

赤一色で、なんだか高級そうな封筒に見えた。

部屋に戻って今読んだんだけど、なんだかヘンな文だった。
『香織様

お誕生日おめでとうございます。

素敵な15歳になりますように。

いつもあなたを見守っています。

あなたのファンより』


すごく不思議な手紙だけど、ファンなんて言われて悪い気はしない。

きっとわん君からのサプライズだと思う。

なんだかドキドキする~。

さて、今から夕飯食べて、デートにそなえて寝ます。
9月21日(水)

寝不足のせいで、1日ずっと眠かったよお。

昨日は、夜中にわん君と夜の公園で待ち合わせしてデート。

誕生日と記念日の夜にふたりっきりで会うなんて緊張した。

で~、ついにキスされちゃった!


今、こうして書いていても、なんだか顔が熱い。

わん君はプレゼントに腕時計をくれたの。

わたしが好きなアニメのイラストが描かれているかわいい腕時計。

おこずかいを貯めてたんだろうな。

今までで一番うれしい誕生日となりました~。


そうそう、わん君に学校で赤い手紙のことを聞いてみたけど、

「しらない」だって。

一体だれからの手紙だったんだろう…。



【sideB 芽衣】


「芽衣(めい)はどう思う?」

結菜(ゆいな)がそう尋ねてくるときは、たいてい答えるべき言葉が決まっている。
解いていた数学の問題から視線をあげ、前の席で体ごとこっちを向いている結菜を見た。

「気のせいだと思うよ」


心配性の結菜はよく私に質問をしてくる。
それに対しての正しい対応は、心配の芽を摘むような答えがベストだと一年半の関係で学習している。

放課後の教室には私たち以外誰もいなくて、窓からの夕陽で室内がオレンジ色に染まっている。

「そっか……。じゃあ私、嫌われているわけじゃないんだよね?」

ひとつに結った髪を指でとかしながら結菜はホッと息をついた。
不安なときに髪を触るのは彼女の癖だ。

「どうして嫌われていると思うの?」

「だって……今朝『おはよう』って言ったときにそっけなかったから」

うつむく結菜はクラスメイトのひとりに入学以来ずっと恋をしている。
それはあまりにもひたむきで、見ているこちらが痛くなるほどの片想い。
一年半も想い続けていることになる。
夏休み明けの九月からは、一方通行の想いにひどく苦しんでいるのが伝わっていた。

一緒になって悩むよりも、なんでもないように言ってあげるのが結菜を安心させるためのセオリー。そもそも、結菜はまだ私に片想いがばれていないと思っているらしいし。

「そうかなあ。昼休みにふたりでなにか話してたじゃん」

「あれは私のお弁当を見て、『うまそう』って……。きっと私じゃなくてお弁当のおかずに興味があっただけだもん」


やれやれ、と宿題のノートをしまいながらも表情には出さないように気をつける。
ちゃんと元気づけてあげないと結菜は夜も眠れなくなってしまうだろうから。

「そんなことないってば。もしも結菜が大っ嫌いな人がいたとして、その人のお弁当の中身に興味を持てる?」

「私、嫌いな人がいないからわからない」

「そういうことじゃなくてさ……」と少し考えてから私は続ける。

「結菜に興味があるからこそ、和宏(かずひろ)はお弁当のことを話してくれたんだよ。朝のあいさつはたまたま聞こえなかったか、眠かったかだけ。どうせまたゲームでもしてて寝不足なんだよ」

そう言った私にようやく結菜の表情が柔らかくなった。