「おはようさん。みんな早いなあ」

関西弁のイントネーションは久保田が登場する合図。
丸まると太っている体型は最近さらにふくよかさを増している。
明るい性格なのでクラスのお笑い担当ってところだ。

結菜の横の席に「よいしょ」と久保田は座る。
大きな体を小さな机に窮屈に押しこむと久保田は意味ありげな視線を私に向けた。

「昨日な、駅前で見かけたで。柊先生と一緒に帰る作戦、成功してたやん。声かけようと思ったけど、遠慮しといたわ」

「当たり前よ、私を誰だと思ってるの? ま……おまけがついてきたけどねぇ」

胸を張って自慢げな顔をしていると、

「なにいってんだよ」

呆れ顔の和宏が腕を組みながら歩いてきた。

「ふたりで帰るのは禁止されてるから、俺たちがついてってやったんだろ。な?」

和宏が結菜に同意を得るように顔を近づけると、結菜はカクカクとロボットのようにうなずいている。

「そ、そうだね。和宏くんの言うとおり」

ぎこちない結菜は置いておき、私は和宏をにらみつける。

「私のアイデアなんだからね。それにさ、私の恋を応援するなら、途中で気をきかせて消えるとかしてよね。あれじゃあ四人で帰っただけだもん。作戦成功とは言えない」

「あほか。んなことしたら柊に一生うらまれちまうじゃん」

「柊先生って言いなさい」

ぐ、と詰まった和宏がズイと前に出た。

「そもそも応援するなんてひと言も口にした覚えはない。なんたって、柊先生が小鹿ならお前は飢えたライオンだもんな」