「柊我音は、今年の初めにそれまで勤めていた学校からこの町に移ってきた。
いや、戻ってきたんだ。
それは、稲垣沙希の近くにいるためだったんだろうな」

「復讐……のため?」

うまく声がでない。
ゆっくりとうなずく鈴木刑事を不思議な気持ちで見ていた。

柊先生にそんな苦しい過去があるなんて、私はなにも知らなかった。

香織ちゃんが殺されたあと、悲しみは怒りに生まれ変わり、死ぬこともできずもがき苦しんだ。

それからは復讐のためだけに今日まで生きてきたのだろう。

「香織ちゃんにつきまとっていたストーカーは……? 
その人がぜんぶ悪いんじゃん。
それなのにまだ捕まっていない、そういうこと?」

三年前の事件は、この町に激震を引き起こした。
あんなに騒がれていたのにその後犯人が捕まったという報道はないままだった。

「香織がストーカーの被害に遭っていたのはたしかだ。
病院での事件を起こしたのもストーカーで間違いない。
が、おそらく犯人は自殺したものと警察は結論づけたんだ」

「え……。香織ちゃんを殺したあと、犯人も自殺したってこと?」

「ストーカーは佐々木香織に対し『お前を殺して自分も死ぬ』という手紙を送りつけている。
事件のときもそう言っていたと稲垣沙希が証言している。

あの事件から一週間後、市街にあるダムでストーカーが書いたと思われる遺書が発見されたんだよ。
そこには香織への想いがつづられてあった」

もう出尽くしたと思った涙がまた頬にこぼれた。

柊先生が犯人だったとしたら、彼は行き場所のない怒りのなか生きてきたことになる。