「お兄ちゃんは? 
そう、お兄ちゃんの名前はまだどこにも出てきてないよ」

尋ねる私に鈴木刑事は首を振った。

「警察のその後の調査で、有川直樹はあの時期に二方原病院に通院していたことがわかった。
本人によると、つき合っていた彼女が亡くなってすぐのころだったそうだ」

「あ……」

直樹がつき合っていた彼女が亡くなったことを以前語っていたことを思い出す。
通院するほどひどかったんだ。
そんなにひどい状況だなんて私は全然知らなかった……。

「でも、その場にはいなかったんでしょ? 
お兄ちゃんが犯人に恨まられる理由はないはず」

「それが、違うんだ。
容疑者である柊我音と、君の兄である有川直樹には重要な接点があった。
どうやら病院の前で派手にケンカをしたことがあるらしい。
病院の関係者の証言もある」

「いつごろなの?」

「時期は未定。ケンカで怪我をしたふたりに受診を勧めたが、ともに帰ってしまったそうだ。
その際に柊我音に恨みを持たれたんだろう」

考えが糸のように絡まっていて理解することができない。


鈴木刑事がナプキンに『有川直樹』と書くと、柊先生の名前と線で結んだ。

ふと、その名前を見ていて気づく。

柊我音……ひいらぎわおん。もしかして……。