一緒に逃げた仲間から裏切られ、彼女はどんな気持ちだったか。

「このことは警察にかかってきた緊急ダイヤルの録音で明らかになっている」

涙をこらえている私を見てしばらく黙ったあと、鈴木刑事は私の顔をまっすぐに見た。


「そのカップルというのは、稲垣沙希と井口大輔のことだ」

「……ウソ」

思わず息が吸えなくなる。
言われた言葉を理解しようとしても頭がついていかない。沙希が……?

手帳に今、鈴木刑事がふたりの名前を書いた。

「稲垣沙希は中学生のときに自殺未遂をし、強制的に病院へ入院させられた。
事件が起こったあの晩は、彼氏である井口大輔もこっそりと泊まっていたそうだ」

私は、どんな顔をしていたのだろう。

沙希があの事件に関わっていただけではなく、被害者を見殺しにしたなんて。

「これで、今回の被害者の三名は登場したことになる。
藤本昌代に稲垣早希、井口大輔。
彼らは佐々木香織の死に関わっていたどころか、いわば見殺しにしたようなもんだ。
柊我音はそれを恨んで犯行に及んだと我々は見ている」