香織はさぞかし恐ろしかっただろう。
どんなに助けを求めても信じてもらえず、最後には殺されてしまった。

彼女を想うと、涙がこぼれそうになった。

「でも……藤本さん以外の人は? いったいどう関わっているの?」

手帳に記された『藤本昌代』の文字を見て尋ねる。

直樹は? それに沙希や大輔の名前はまだ出てこない。


周りの客の楽し気に交わされる会話のなか、私たちの周りだけ重い空気が流れている。
足元からゾクゾクと寒気が這いあがっている。

「三年前の事件の夜、もうひとつ佐々木香織には苦難があった」

「というと?」

気づかれないよう何気なく涙をぬぐいながら私は尋ねた。

「病院内に進入したストーカーは夜勤の看護師と介護員を次々に殺害した。
入院している老人もだ。
そんななか、佐々木香織は同じく入院していた中学生カップルの部屋に逃げこんだ。
このことはマスコミには公表はしていない」

「え……そうなんだ」

「そのカップルは、犯人から佐々木香織を部屋の外に出せと命令された。
さもないとお前たちも殺す、と脅されたんだ」

ゾクリと体が震えた。

「それで……」

言葉を続けられずに鈴木刑事を見ると、彼は深く眉にシワを寄せて目を閉じた。

「ふたりは、抵抗する佐々木香織を無理やり部屋の外に押し出した。
そして、無情にも部屋のドアを閉めてしまったんだ」

「そんなっ」

思わず叫びそうになる口を両手で押さえた。