男がそう言った次の瞬間、ナイフがわたしの胸に吸いこまれていく。

何の抵抗もなく体に刺さった一秒後、わたしは男の瞳を見ていた。

はじめて見る満面の笑顔がそこにあった。

痛みもなくその場にくずおれる。


「香織……愛しているよー」

視界に男の靴がぼやけて映っている。

冷たい床に広がっていくのは、わたしの血。

赤い手紙によく似た色。


自分を刺した男なのに、

「あ……ああ……」

助けを求めわたしは手を伸ばしていた。

自分の体から熱が流れ出すように奪われていく。

寒い。寒いよ……。