うしろ手にドアのノブを引いてみると、ガチャリと開いた。

走れば逃げられるかも!

とっさに向きを変えようとする私に、男性は笑った。

「さっきの女の子を殺すよ?」

「え……」

「小学生くらいの女の子がいたよね。
あの子の部屋のドアも今はカギがかかっていない。
いいのかな? 僕、殺しちゃうよ。殺しちゃうよ! 
君のせいであの子は死ぬんだねーー!!」


杏……。

気がつけば開けかけたドアを元に戻していた。

男をゆるゆると見る。
真っ赤なパーカーは、彼がくれた手紙の色によく似ている。

全身から力が抜けるようにわたしはドアにもたれるようにして立つ。
はじめて感じる絶望に、涙がただ頬を伝っていくのがわかった。