彼氏の右手が振りあげられたかと思った次の瞬間、わたしの頬に強い痛みが走った。そのまま転がり、ドアに頭を強くぶつける。

頬を叩かれたと知ったときには彼女によりドアは開けられていた。

「やめてぇぇぇ!」

「うわああああああ!」

全身から叫ぶ彼氏に蹴られ、わたしは扉の外に転がり倒れた。
目の前でドアが勢いよく閉まった。
なかからは嗚咽のような泣き声がしている。

そんな……こんなことが起きるの?


パタンパタン

足音。
そして、ダリコムの歌をつぶやく声。

這いつくばったまま顔をあげると、すぐそばにあの男が立っていた。

「香織、また会えたね」

「あ……ああっ」

「君にはがっかりだよ。僕の気持ちを裏切っただけじゃなく人殺しまでさせるなんて」

「イヤ……」

なんとか上半身を起こす。
ゆっくり立ちあがれば、頭をぶつけたせいで視界が揺らいでいる。

「やめて……」

あとずさりをするけれどそこには非常口のドアがあるだけだった。