いけない。

彼女はパニックを起こしている。彼氏のほうはじっと固まったように動かない。

スマホから叫ぶ声。

「佐々木さん、そこにいるかたも動かないで。今警察が向かっています」

「向かってるってどれくらいだよ! あと何分だよっ!」

彼氏のほうが尋ねると、警察の人は「おそらく」と間を置いてから答える。

「十五分くらいです」

「待てるかよ!!」

爆発したように彼氏が怒鳴った。

「こっちは一分って言われてるんだぞ!! んだよ!! ふざけんなよ!! 俺は死にたくないんだよ!!」

「落ち着いてくだ――」


ピンポーン

大きな音が館内に響き渡った。

――ジジ、ゴトン
「時間だよ。生きるか死ぬか、君たちの答えを聞かせてほしい。
これがラストチャンスだよ。……今から向かうからね」

一瞬の沈黙。

次の瞬間、わたしの体はふたりの腕に捕まえられていた。

「待って!」

ありえないほど強い力で、ふたりがそのまま部屋の外へ押し出そうとしてくる。

「やめて! 一緒に扉を押さえればあけられないからっ!」

ふたりの目は血走っていてわたしの声は届いていない様子。
物でも押し出すように強い力を緩めない。

「お願い、あんただけ死んでよ。死んでよ。ねぇ!!」

悲鳴にも似た声で彼女が泣き叫ぶ。

「お願い! やめて、助けて!」

「うるせぇっ!! 俺たちはまだ死ぬわけにはいかないんだ!!」