「香織を外に出せば君たちの命は助けよう。
だって、君たちは僕と香織の恋愛に巻きこまれただけなんだ。
いわば、被害者なんだよ」

かぶせるように言う男に、彼女がハッと声の主を探すように宙を見た。

「うちらが被害者……?」

「部屋から追い出したところで、誰も君たちを責めはしない。
だってそこは君たちの部屋だろう? 
罪を犯した香織を守る必要なんてない。

一分あげるから考えてみて。なにが本当に正しいのかを。
死ぬべきなのは誰なのかを」


「待って……こんなのウソなの。警察がきっと助けてくれるから」

わたしの声にもふたりは反応しない。

スマホの向こうではまだ男性がなにか怒鳴っていた。
わたしは震えているふたりに近づいた。

「聞いてください。きっと警察が助けにきてくれる。だからそれまで――」

「死のうとしてごめんなさい」

彼女のほうが急に口を開いた。
濃い化粧を溶かして彼女は泣いていた。

「あたしが自殺しようとしたから、こんなことになったんだ。
これは神様からの罰なんだよ。
もう死にたいなんて思わないから、だから許して。お願い……」

「違うよ。そうじゃないよ」

「違わない! だって見た……見たでしょう!? 
あんなにたくさん人が殺されているんだよっ!」