「落ち着いて話をしてください。今、どこにおられますか?」

「病院……」

痰がからんだようにうまく話せない。

「なにがありましたか?」

ゆっくり尋ねる声に誘導されるように、少しだけ気持ちが落ち着いてくるのがわかった。ジンとしびれる頭を必死で振り起こす。

「あの、今……病院に男が押し入ってきて……。看護師さんたちが殺されました。二方原病院です」

「二方原病院? 精神病院の?」

「はい! 助けてください!」

「助けてぇ!」

カップルの声が重なった。

「ええと……あなたの名前は? まさか入院している人?」

「佐々木香織です。入院しています」

「じゃあ先生や看護師さんたち、近くにいますか?」

「え……」

相手の声色の微妙な変化を感じた。

半分疑っているような声は、藤本がわたしに言う口調そのものだった。
入院患者が妄想でも起こし電話をかけていると思われているのかもしれない。
だけど、これは現実のこと。

「本当なんです。助けてください!」

「事情を詳しく――」