「お前のせいだ。お前が僕を壊した。僕たちを壊したんだっ。僕たちをおおお!」

「わたし……」

ガタガタ震える足に力が入らない。目の前がまるでグルグルと回っているようだ。

「僕はここまでやっているんだよ。ぜんぶ君のためじゃないか」

男がゆらゆらと近づいてくる。

「どうして……どうしてわたしなの?」

カップルが少しずつあとずさりをしている。
いくつかの部屋のドアが開くけれど、事態を察したのかすぐに閉められてしまう。

カップルの男性のほうが私にだけ聞こえるような声で、

「おい、やばいぜ。どうするんだよ」

と尋ねてきた。


「香織、一緒に死のう。僕はそのためにここまできたんだよ。君のいない人生なんて考えられない。だから、死のう?」

男の精神はまともとは思えなかった。
大量の返り血を浴びてもなおゆっくりと進んでくるそれは、まるで悪魔のように見えた。

このままでは殺されてしまう……。

「逃げよう」

カップルの男性に向かって言うと、彼は小さく何度もうなずいた。
わたしは足の向きを変えると、奥の部屋に走り出す。

「早く!」

ふたりに声をかけると、ようやく彼らも走り出す。

目指すのは奥にあるカップルの部屋。
開いているドアに飛びこむと、ふたりがなかに入るのを待ち素早く閉める。続いて施錠をすると、私は床に座りこんだ。
汗と涙と鼻水で顔はひどいことになっている。

カップルの男性もガチガチと歯を鳴らせて、

「いったいなにがおきてるんだよぉ」

と震えている。

「あたしに聞いてもしらないよ。怖い、怖いよ」

女子中学生は両手で顔を覆って荒く呼吸をしていた。