「ごめん、そこまでたどり着く前にあきらめちゃったみたい。で、そのMOVERがどうかしたの?」

「なんかね……んー、まぁいいや。気にするほどでもないかも」

「なにそれ。そこまで言っておいて言わないなんてありえない。気になるじゃん」

「ごめん、本当になんでもないんだ。それより、例の計画は成功したの?」

一転、明るく問いかけてくる沙希に、

「計画?」

と尋ねると、低い声で笑う声が耳に届く。

「柊と帰る計画」

「先生ってつけなくちゃダメだって。呼び捨ては良くない」

「出た出た、そういうマジメなところが芽衣の長所でもあり短所だよね。で、柊先生とはどうなの?」

とたんに頭が柊先生で満たされる。

「それがさぁ、聞いてよ――」

その後、私は沙希に待ちぶせをして柊先生と一緒に帰ったという話を詳しくしゃべった。
沙希もいつもの感じに戻ったみたいで、私の話をおもしろおかしく茶化したりしていた。

ENDAのアプリのこともMOVERという動画のことも、忘れていたことも忘れて長電話をした。

元気がないように思えたのは、気のせいだと思った。
覚えているのはただひとつ、九月の末というのにやたら暑い夜だったということだけ。