「おい」

声をかけたのはうしろを歩いている出勤途中であろうサラリーマンの男性。
お腹の出た中年の男性は、思ったよりも機敏な動きで鈴木刑事のそばにきたので驚く。

「学校まで送ってやってくれ」

「わかりました」

ぽかんとする私に、

「また連絡する」

と言って鈴木刑事は走って行ってしまった。

「どういうこと? 待ってよ」

背中に声をかけるが、振り向きもせずに行ってしまう。

嫌な予感が大きく成長していた。
隣にはメタボなサラリーマンがいる。


「あの……」

いぶかしげに尋ねる私に、サラリーマンは背広の内側から手帳を見せてきた。

「捜査一課の吉田です。鈴木刑事からの指示で護衛させていただいておりました」

「護衛?」

「犯人が複数名いることも視野に入れての行動です。ご安心ください、他にも数名護衛をしておりますので」

ハキハキ言う男性は、あたりを用心深く観察しながら言った。歩き出す私のそばにピタリと吉田刑事は貼りついている。

たしかに少し遅れてOL風の女性や、若いサラリーマンの姿が見える。どちらも共通しているのは目線をさりげなく左右にやっていることだった。

学校が近づくにつれて生徒の数も増えていき、ヘンなコンビの私たちを興味深げに見ている。

「あの、もうここで大丈夫です」

恥ずかしさのあまりそう言うが、吉田刑事は頑なな性格らしく離れてくれない。