二方原病院の名前を、私はよく知っている。

「待って。その病院ってたしか……」

「ああ。あの事件があった病院だ。しかも、藤本が辞めた時期は、事件の時期と一致している」

そう……あの事件が起きたのは三年くらい前だったはず。
当時、町をにぎわした事件の舞台となった病院だ、知らないはずがない。
マスコミがこぞって騒ぎ立て、当時中学生だった私にも衝撃的だったからだ。

しかもまだ犯人は捕まっていない未解決事件。

「でも藤本さんが辞めてしまったことと、今回の事件に関係があるの?」

つい興奮して、早口で問いかける。

「ああ、いや……」とつぶやき鈴木刑事が歩き出したので私もならった。

「今回、犯人は藤本を看護師だと書いていた。犯人の恨みは、看護師時代の藤本に対するものかもしれない」

「二方原病院で起きた事件と今回の連続殺人がつながっている、と?」

私が尋ねる声に返答がない。
振り返ると、数歩うしろで立ち止まった鈴木刑事が両腕を組んでいた。聞こえているのか聞こえていないのか、

「ひょっとして……」

蚊の鳴くような声で鈴木刑事はブツブツ言っている。

「ちょっと、鈴木さん!」
大きな声を出すと、ようやく我に返った鈴木刑事はパチクリとした目で私を見た。
その瞳に動揺が浮かんでいる。

「なにかわかったんですか?」

「いや、違う。だが、ちょっと……調べてみたいことがある」

鼻をかきながらしどろもどろに答えている。