「香織、怖がらなくてもいいんだよ」

この声を……わたしは知っている。

「僕がそばにいるからね」

あのトイレの前で声をかけてきた声。

「さあ、こっちを向いてごらん」

電話の声に間違いない!


魔法にかけられたように声のするほうを、ゆるゆると見た。

暗闇から姿を現したその男性は、昼間、町内会の人たちが着ていたパーカー姿で黄色い帽子を目深にかぶっている。

カップルも凍りついてその男を見ている。

男の手には、大きなサバイバルナイフが握られていた。

刃の部分が真っ赤に染まっている。