――ふと、声が聞こえた気がした。

悲鳴のような声。
耳を澄ましてみるが、もうなにも聞こえない。

どこかの部屋の患者が暴れているのだろう。この病院では様々な心の病気を抱えた人が暮らしているから、こういうことは日常茶飯事だ。

ドアを開けて顔を出す。
薄暗い廊下が静かに続いているだけだった。


食事のトレーを持つと、わたしはナースステーションに向かった。
夜勤は誰だっただろう。
朝から藤本がいたから、彼女でないのは確かだ。

どちらにしても食器は早く返さないといけないルールがある。
こんなに遅くなったのは、藤本が無理やり飲ませた薬のせいだ。

ふつふつと沸く怒りを抑えながらナースステーションに近づく。

「すみません」

ステーションのカウンターにトレーを置いた。
嫌味を言われなければいいけれど……。
しかし、どこにも看護師やヘルパーの姿はなかった。
見回りに行ってるのかな。