ノックの音もせずにドアが開き、藤本が顔をのぞかせた。急いで服の袖で涙を拭っている間に、彼女が部屋に入ってきた。

紙コップと何粒かの白い薬。
これを飲むと、考える力がなくなり体が一気にだるくなる。
そうしているうちに眠気だけが体を支配するのだ。

「まだ夜ご飯食べてないのに、なんで飲まなくちゃいけないのですか?」

「今日は特別なの。早く飲んで」

きっと、杏にとった態度のせいだろう。
拒絶を示すためにわたしはプイと顔をそむけた。

「飲まないなら、注射になるわよ」

近頃はイラつきを隠さなくなっている藤本が言った。前までのやさしさはみじんも感じられない。
その顔を睨みつけた。

信用できない人。
憎い人。
殺したい。
あんたなんて死んでしまえばいい。

「な……」

ひるんだスキにその手から薬を奪い取ると、口に放りこみ水で飲みこむ。

「これでいいんでしょ。出て行ってよ」

目線をはずさずに冷たく言い放つ。

「……勝手にしなさい」

わたしの手から紙コップを取りあげると、彼女はきびすをかえして部屋から出て行った。