なんて答えようか迷っていると、

「なにしているの?」

藤本さんがいつの間にかそばにいた。
まるで詰問するような口調に胸がトクンと音を立てた。

けれど、杏はわたしの体を抱いたままで、

「内緒だもーん」

といたずらっぽく答えている。

「そう、内緒だよね」

「うん」

藤本さん……いや、藤本はじっとわたしを見ていたがやがて、体の力を抜いて杏の目の高さになるよう腰をかがめた。

「もうお部屋に戻りましょう。夜ご飯まではお勉強の時間だよ」

「やだ。久しぶりに香織ちゃんに会えたんだもん!」

意地でも離さないと強く抱きついてくる杏。
もうすぐ退院してしまう杏。
わたしを置いていく杏。
輝かしい毎日が待っている杏。
わたしを暗闇に置いて消える杏。

杏なんて!

「きゃ」

小さな声が聞こえ、気づけば杏の小さな体を引き離していた。

「あ……」

「なにするのよ!」

藤本がとっさに杏の手を取り、背中にまわしていた。射抜くような目でわたしを責めている。

「あ、ごめん……。ごめんね、杏ちゃん」

こくりとうなずく杏に謝ってから、わたしは廊下を戻って部屋へ帰る。