この病院に来た当初は、頑丈と思えるセキュリティに完全に安心しきっていた。
……それでもストーカーはやってきた。
確かにその存在は感じるのに、誰も信用してくれなかった。

わたしは妄想の世界に生きているの?
ストーカーなんて最初からいなくて、わたしの頭が作りだした幻なの?

「香織ちゃん、大丈夫?」

ハッと気づくと、杏が心配そうにわたしの顔を見あげていた。

「あ、うん……」

いつの間にか町内会の人も帰ってしまったらしく、フロアは閑散としていた。薬の影響でぼんやりしていたみたい。
遠くで藤本さんがわたしを見ていることに気づいた。

「大丈夫だよ。ちょっと居眠りしちゃってた」

あはは、と笑ってみせると杏は安心した顔になってくれた。

――ごめんね。わたしは退院できなくなっちゃった。

心のなかで謝ると、ゆっくり起きあがってみる。杏も同じように立ちあがる。右手にはいつものようにうさぎのぬいぐるみがある。

たしか、去年サンタさんにもらったって言ってたっけ……。