……気にしすぎなのかも。

「香織ちゃん」

声のするほうを見ると、杏がうれしそうに駆けてきて横に座る。
杏とも久しぶりに会った。

「もうお風邪、よくなったの?」

あどけない瞳で尋ねる杏に、一瞬いぶかしげに眉をしかめてしまう。そっか、大人たちはわたしのことを『風邪を引いた』ってことにしているんだった。

「うん、もう大丈夫だよ」

合わせる義理もないのに、杏を笑顔にしたくてそう答えた。

「わー。よかった。杏、心配してたんだよ」

杏は白い歯を見せてうれしそうに体を前後に揺らせている。

「ありがとう。心配かけたね」

「じゃあ一緒に退院できるね」

その言葉にわたしは「あ……」とつぶやく。

そうだった、一緒の日に退院しようって約束していたんだ。
でも今の状態で、病院側が退院を許可してくれるとも思えないし、なによりも外の世界に戻るのが怖い。