「落ち着けよ」

のん気な直樹に答えられずに嗚咽を漏らしていると、「実はさ」と直樹が続けた。

「今、熊本県にいるんだよ。今日になって名古屋の予定が急遽変更になってな。さすがに犯人もそこまではわからないと思うよ」

とやさしい声がした。

「だめ、それでもだめ。お兄ちゃんまで……」

声にならずに涙だけがこぼれていく。

しばらく黙ってから、直樹は「ふ」と小さく笑った。

「わかったよ。じゃあ、お前にまかせるよ。俺だって死にたくないもんな」

「鈴木さんに連絡する。ホテルの部屋から絶対に出ないでね。警察がきてもドアを開ける前に身分証明書を確認してからにして」

「あぁ。わかったよ」