「お願い。今の、絶対に誰にも言わないで」

「ええで。その代わりファミレス食べ放題たのむわ」

平気な顔で脅迫してくる久保田に、私は「わかったよ」と白旗をあげた。渡り廊下を歩き、下駄箱へ向かう。

「でも、和宏のことはどうするん?」

「そんなの……わからないよ。自分がどうしたいのかはっきりしないし、結菜とのこともあるし……。それに、なんだか和宏、急に冷たくなったように思えちゃうんだよね」

ふん、と鼻から息を吐いた久保田は、

「わかるなあ」

とつぶやいた。いつもの彼らしくない重いトーンだった。

「一番好きな人が、自分のことを見てくれてへんのはつらいわ。ましてや、僕の場合は、自分の親友を好きなんが丸わかりやし」

「え……それって、結菜の、こと?」

固まる私に、久保田は靴を変えると小さくうなずいた。

「内緒やで。まあ、お互いがんばろうや。僕の場合は勝ち目がないけどな」

がはは、と笑うと久保田は私の肩をパシンと叩いて歩いて行く。
久保田が結菜のことを……?
ますます混乱する頭に、チャイムの音が響いていた。