「冗談ちゃうで。和宏のこと好きなんやろ?」

「やめてって」

教室を出て廊下を急ぎ足で歩いても、久保田はぴったりひっついて離れてくれない。

「結菜さんのこと、どうするん?」

その言葉で、目の前が通せんぼされたかのように足が動かなくなった。久保田はゆっくりと近づくと、

「隠さなくてもええって。それに気づいているのは僕くらいなもんやし」

なんでもないことのように言った。

「……違う、勘違いだよ」

「わかるで。好きになった相手ほど、自分のことを振り向いてくれへんしな」

にこやかな顔の久保田をにらみつけるけれど、勢いが続かず私は床に視線を落とした。

「なんで……?」

どうしてみんな、こんなに敏感なの?

「結菜さんとおかしくなってるやろ? 結菜さんが和宏のことを好きなのは誰が見ても明らかやし、和宏自身も知ってると思う」

答えられずに床についた傷跡を見るしかできない。

「結菜さんが有川さんのことを怒っている理由がわからんかった。最近は仲直りしたみたいやけど、やっぱりぎこちない。そうなると恋愛関係での悩みかな、って思ってん」

歩き出した久保田についてノロノロと歩く。
頭のなかにあるのは『最悪』の二文字。絶対誰にもバレてないと思っていたのに、まさか久保田に知られるとは……。