それ以来、私は沙希に完全に心を許してしまったのだ。
だけど、沙希は教室の中ではムスッと窓からの景色を眺めているだけ。
ふたりのときはたくさん話をするのに、誰かがそばにいると急にそっけない態度を取ったりしていた。

それでも、なにかと私を気にかけてくれていたし、不器用なだけでやさしい女子だと私は知っていた。
毎日のようにSNSでやり取りもしていたし、みんながウワサするほど夜遊びをしていることもなかった。

『稲垣さんて、お父さんがこの学校の理事なんだよ』

『不良なのに退学にならないのは父親のおかげ。いいよね、自由で』

聞いてもいないのにクラスメイトは沙希が休んだ日にそんな情報を吹きこんできた。

そのたびに『そんな子じゃない』と私は首を横に振った。
それでも、みんなは沙希の悪口を言い続け、たとえ登校しても話かけることもなかった。
みんなが誤解しているのが悔しくて、私は結菜を連れてよく話をしていた。


それなのに夏休み明けの新学期から、沙希は前にも増して学校に来なくなっていた。

「ごめんごめん。彼氏が最近仕事辞めたんだよ。だから、ついあたしまでダラダラしちゃってさ」

あっけらかんと言う沙希に思わずムッとする。
彼氏である大輔とはもう三年以上つき合ってるそうだ。