願いごとは、忘れたころにかなうもの。
あんなに毎日会いたいと思っていた柊先生だったのに、恋心が消えてからのほうが会う機会が増えている。

今日も学校からの帰り道、柊先生が前を歩いていることに気づいた。
ずいぶん前からいたはずなのに、降り出した初雪に気持ちが奪われていた。ううん、なんだかぼーっとしていただけかも。
前だったら、この偶然を神様に感謝して駆け寄っていたはず。なのに今の私はその背中を見ながらひとり歩くだけ。

結菜と一緒に帰ることはほとんどなくなった。
ひとりぼっちのさみしさが募るけれど、自業自得だとも思う。
雪ははらはらと柊先生を隠すように落ちてくる。

ふいに振りかえった柊先生が私を確認すると足を止めてくれた。

「お疲れ様です」

なんとか笑顔で言うと、柊先生は軽くあごを引いた。

「最近は待ち伏せとかしないんだな」

「ひょっとして期待してた?」

「まさか、そんなわけないだろう。具合でも悪いのかと思ってな。授業中もぼんやりしてるぞ」

片眉をあげていたずらっぽく言う先生に、私は顔をしかめた。

「そんなことないよ。期末テストも自信あるし」

「ならよかった」

歩き出した先生の横に並ぶ。

「生徒とふたりきりの下校はダメなんじゃなかったっけ?」

「ああ……。別にいいんじゃないか。歩幅が同じってことで」

そう言う柊先生の口調がどこか疲れているように思えた。横顔も顔色がすぐれない。
剃り忘れたのか、あごに無精ひげまで生えている。

「先生こそ最近具合が悪そうに見えるよ。風邪?」

「いや、別に。ちょっと寝不足なだけだ」

気の利いたセリフも言えずに交差点に差しかかる。赤信号が私たちの足を止めた。
カサもささない私たちの上に、まだ雪が淡く落ちてくる。