「実は、藤本昌代なんだが、どうも人違いらしいんだ」

「……看護師じゃないとか?」

「いや、看護師をしているのは間違いない。いや……『していた』だな。年齢は六十四歳で、今は退職してホスピスに入院しているそうだ」

「ホスピス?」

聞き慣れない単語を繰りかえす。

「ホスピスってのは、ガン患者の終末治療のための施設のことだ。藤本昌代は末期ガン患者だそうだ。会いに行ったが、もう昏睡状態になっていたよ」

「てことは、別人でもうひとり藤本さんがいる可能性があるとか?」

そう尋ねると、鈴木刑事は「ああ」と低くうなずいた。

「今朝わかったことなんだが、今田昌代という女性がいてな……。年齢は四十歳。離婚したらしいんだが、結婚しているときの性が藤本だったんだ」

「え……じゃあその人が?」

「今、会ってきたところだ。『身に覚えがありません』と言っていたがどうも怪しい」

それは鈴木刑事の顔が怖かったからじゃ、と言いかけて言葉を飲みこんだ。今はからかっている場合ではない。

「その藤本さん……今田さんにも一応気をつけてもらわないと危ないよね」

「念のため保護を申し出たが、理由も聞かないうちに扉を締められちまったよ」

「それって危険すぎない?」

危惧して言うと、

「もちろんだ」

と鈴木刑事は言った。