久保田はスマホを操り、裏BBSの画面をスクロールしていく。執行人の書いた文字は見るたびに嫌な気持ちを呼び覚ますよう。

「――動機がおかしい、ってどういうこと?」

声を潜めて尋ねると、久保田は画面を拡大してみせた。以前も見た、沙希の殺害理由について執行人が書いてある箇所だ。

「ここにさ『傷つけられている人を、見て見ぬフリをしてやり過ごすヤツのこと。すべてを〈他人事〉にして、火の粉がふりかからないようにしている。それが本当の悪だろう』って書いてあるやん。でもそれって普通に考えたら、仕方ないと思わへん?」

「私も前から思ってた。誰かを助けなきゃいけなくても、できないこともあるよね」

「誰かって自分がかわいいやん。他人を見捨てたから生きていても仕方ない、なんてあまりにも不条理やないか。それがこの殺人の理由やとしたら納得できへんわ」

同意を求めるように和宏を見やった久保田。和宏も首をかしげている。
執行人が犯人であるならば、本当にあれだけの理由で沙希を殺したの?

久保田の指がスクロールを続け、

「あちゃー」

と大きな声をあげたのでビクッと体が震えた。周囲の視線が一気に集まる。

「大きな声を出すなってば」

和宏の非難にも久保田は反応しないで、画面を指さした。

「見てや。新しい書きこみがあるわ……」

たしかにこれまではなかった10と記された文字が映っている。
私たちは画面を食い入るように見つめた。