昇降口で靴を履き替えて階段をのぼっているとチャイムが鳴り、購買部へ急ぐ生徒が駆けおりてきた。もう昼休みなんだ……。
背中を眺めながらまた泣きそうになる。和宏のやさしさが私の感情を変えていく。
それに抗うことをやめれば、きっとラクになれるんだろうな……。

トイレで顔を拭いてから教室へ入ると、みんなの視線が一斉に集まる。

「お、容疑者のおかえりや」

からかう久保田に周りのクラスメイトは引きつった笑いをあげている。どうやら本当に疑っている様子だ。普通にしなくちゃ、と自分に言い聞かせた。

「私は事情聴取を受けただけだから。無実だからね!」

大声で言う私に、みんなはようやくホッとした顔を浮かべた。なかにはスマホのSNSを見せてくるクラスメイトまでいた。そこには、パトカーに押しこめられる私の動画がアップされていた……。
これはとんでもない噂が広まっていそうだ。でもまだみんなは大輔の事件は知らない様子。
教室のすみに和宏がいたので近寄ると、久保田もやってきた。

「放課後、トムトムバーガーで、いい?」

暗号のように小声で言うと、ふたりとも「わかった」とすぐに同意してくれた。