情けなさに視界が涙でゆがんだ。洟をすすっていると、

「ちょっとすみません」

女性の声が聞こえて顔をあげた。

見ると知らない女性がにっこり笑って私を見ていた。三十代だろうか、美人だけど化粧が濃く香水のきつい匂いが漂っている。

「はい」

「あなた、稲垣沙希さんと同じ高校でしょ?」

「え?」

立ちあがりながら、彼女の右手にマイクがあることに気づいた。いつからいたのか、少しうしろに大きなカメラを抱えた男性もいる。
これって取材だ……。

「ち、違います」

逃げようとする私の腕を女性がすかさずつかんだ。

「大丈夫、顔は映さないようにするから。あなたの学校、報道規制厳しいのよ。ちょっとだけ答えてくれればいいから」

「離してください。私、なんにも知りません」

笑顔とは裏腹に強い力で腕を握ってくる女性レポーターは、

「じゃあどうして警察から出てきたの?」

と尋ねたのでハッと口を閉じた。

「今朝、殺害事件として発表された事件のことで呼ばれたのよね? 被害者の井口大輔さんは、稲垣さんの恋人だってことは調査済みなの。このタイミングで警察に呼ばれたということは、あなた、なにか知っているわね」