話題を探そうとする私に、柊先生は首を少しかしげた。

「なんだ、寝不足か?」

「先生こそひどい顔してますよ」

片手で目から下を隠して言うと、柊先生は否定することもせずに視線を下げた。

「まあ、あんな事件があったからな。なかなか立ち直れないよ」

「ですね」

「学校についたら発表があると思うけれど、山本先生も今日から少し休みを取るそうだ」

「ああ……」

たしかに最近、山本先生はふさぎこんでいることが多かった。朝のホームルームも心ここにあらずで、言葉数も少なくなっていた。
軽く息をつくと、柊先生は信号に目をやった。その横顔は吹く風にも負けそうなほど弱々しく見えた。

「まあ、しばらく休めばきっとよくなると思うから」

「わかりました」

信号が変わり、柊先生が歩いて行くのをその場で見送る。
みんな悲しみのなかにいて、動けずにいるのだと思った。
私も同じ悲しみを抱えているはずなのに、もうひとつ別の感情が生まれている。