車から顔を出すなんてできなかった。
自分の心臓の音がすぐ近くで聞こえている。
足音は私たちの前を通りすぎ、すぐに聞こえなくなった。
しんとした静けさが戻る。

「ここで待ってて」

そう言った和宏が私のそばから離れようとするので、その腕を思わずつかんでいた。

「行かないで」

ひとりにされたくない。
もしもさっきの人がまだ近くにいたら危険すぎる。

「気づかれないように見てくるだけ。5分たっても戻らなかったら、あの電気ついている部屋の人に助けを求めて」

見あげると二階の一部屋の窓からは明かりが漏れていた。
私の手を解くと和宏は車と車の間から歩道へ出て行った。
じっとその場で息を殺しているけれどなかなか和宏は戻ってこない。

もしも和宏になにかあったなら……。

そう考えると怖さとは違う感情が生まれてくるのがわかる。
和宏は『一緒に犯人を見つけよう』と言ってくれた。
だとしたら、今も一緒に行くべきだったんじゃ……。

何度も呼吸を整えてから、車の間から歩道へ顔を出した。
心細い街灯だけの道には誰もいない。