前を向こうとしたときに、視界の端になにかが映った気がした。
あれ……?

「どうかした?」

いぶかしげな顔をしていたのだろう。顔を近づけて来た和宏に、

「和宏……前を向いたままで話を続けて」

と小声で告げた。さっき振りかえったとき、道のはしに誰かが立っているのを見た気がしたのだ。

「なんだよそれ」

「気のせいかもしれないけどね……。誰か、ついてきてるかも」

短く息を吸った和宏が「わかった」と答えた。
耳を澄ませても足音は聞こえないけれど、見間違いじゃなかったと思う。

「どうしよう……」

不安で声が震えているのが自分でもわかった。そんな私に、和宏が自然なそぶりで前方を見回す。

「たしかあの角を曲がれば、右手に古いアパートがあったと思う。手前が駐車スペースになってるから車のうしろに隠れよう」

「……うん」

寒いのに額に汗が浮かんでいる。

「大丈夫。俺が守るって言ったろ。ほら、準備して」

和宏の声にうなずくと、四つ角を右に曲がると同時に走り出した。
言われたとおり鉄筋の古いアパートがあり、その前にいくつもの車が停まっていた。

「こっち」

手を引かれて大きな白いバンのうしろに隠れた。尋常じゃないくらい恐怖が足元から這いあがってくる。
ゾワゾワとした感覚のなか、小さな足音が近づいてくるのが聞こえた。

やはり誰かがついて来てるんだ……。