帰るころには日付が変わろうとしていた。
私たちの足音が暗い路地に響いている。

「大輔さん、大丈夫なのかな……」

吐く息が白く宙に溶けていく。

「大丈夫だよ。俺たちの前では強がってたけれど、けっこうビビッてたと思う」

和宏がそう言うなら大丈夫な気がするから不思議。うなずく私に、和宏が首をひねった。

「しかし、犯人からああいう手紙が届いているとは驚いたよ。あんな赤い封筒、どこに売ってんだろ」

「でもさ、さっきの赤い手紙、なにか変じゃなかった?」

「どこが?」

「鈴木さんが見せてくれたのは、もっと血のように濃い赤色だった気がするんだけど。それに金色のふちどりもなかった気がする」

和宏は聞いているのかいないのか、両腕を抱いて寒そうにしている。

「それにさ、差出人が〈管理人〉になっていたよね? 裏BBSの署名は〈執行人〉じゃなかったっけ?」

「ああ、たしかに」

ようやく返事をした和宏に私は足を止めた。

「鈴木さん、なんで電話つながらないんだろう……」

「不安そうな顔すんなよ。てか、遅くなったついでだし、今から警察署行くか。その方が手っ取り早い。まあ、井口さんも今ごろ電話してるかもしれないけどな」

一瞬気持ちが傾きかけたが、すぐに冷静になる。

「こんな時間に行ったら、私たちのほうが補導されちゃう」

「それもそっか」

ニヒヒと笑う和宏はきっと私を元気づけようとしてくれている。
彼のやさしさばかりを感じている気がした。
もう一度振り返ると、もう大輔のマンションは暗闇に沈んで見えなかった。
ずいぶん酔っていた様子だったけれど、ちゃんと気をつけてくれるよね……。