「猿田(えんだ)市のアプリ? なに、それ」

前を歩く和宏に問いかけると、彼は「さあ」と首をかしげる。

夕焼けを消した空には、紫色の夜が忍び寄っている。

か細い街灯の灯りのもと、なんとか柊先生の隣に並ぼうとするけれど、さらりとかわされてばかり。
結菜も和宏のうしろをふわふわ歩いている。
うれしさが顔に表れすぎていて心配になるほどだ。

柊先生と和宏が前列、私と結菜がうしろという構成で駅へ向かって歩く。
念願だった柊先生との下校も、横に並ぶことができなくちゃ意味がないのにな……。
私の気持ちなんて知りもしないで、和宏はかしげた首の角度を保ったまま私を振りかえる。

「〈ENDA〉ってローマ字の名前らしくてさ、どうやら猿田市民のためのアプリらしい」

「らしい、って和宏が見つけたんじゃないの?」

「くぼっさんが偶然見つけたんだってさ。なんでも市内のみどころとか、名産物とかが載っているんだって」

「それだけ?」

「いや、地元ネタ満載の動画がなんとか……よく覚えてないけどおもしろいらしい」

くぼっさんというのは、クラスメイトの久保田という男子生徒のこと。
今年の春に大阪から編入してきた生徒で、丸い体型に軽快なトークですぐに仲良くなった。
明るい性格で、関西の人に抱いているイメージそのもの。
一緒にいると笑ってばかりだ。