「いじめてないよ。デートに誘ってんの」

「柊先生、嫌がってるように見えますけど?」

見ると、たしかに柊先生は困ったように肩をすくめている。そういう表情もいちいちカッコいい。

「どこをどう見たら嫌がってるように見えるのよ。照れているんだよ。ね、先生?」

「照れてないし、見てのとおり本気で嫌がっている」

顔を覗きこむ私に柊先生は速攻で否定してきた。今日はこれ以上粘るのもよくないか。

「仕方ない。センセがクビになっちゃ困るしね」

「お、珍しく聞きわけがいいじゃん」

からかう和宏をにらみつけると、柊先生はこれ幸いとばかりに背を向けてすたすたと歩き出す。
いや、逃げたようにも思える。
その背中を見ながらふと良いアイデアが浮かんだ。
校則に載っていたのは〈教師と生徒のふたりきりでの行動の禁止〉だったはず。

そろそろ結菜も一階におりてくるころだろう。恋をしている者同士、助けあうのも必要だろう。
ということは……。

「そっかぁ。みんなで帰ればいいんだよね、そうしようよ」

「はぁ!?」

男性チームが一斉に声をあげたが、私には聞こえないフリで手をポンと打った。
そうだよ。最初から一緒に帰ればよかったんだ。

「先生、一生のお願いだからちょっと待ってて。ほらぁ、和宏も早く制服に着替えてきてよ!」

私の号令に柊先生と和宏は顔を見合わせてから、

「あーあ」

と、深くため息をついた。