柊先生は毎週木曜日の夜、駅前の英会話教室に通っていてこの時間に学校を出ることは調査済みだ。

「何度も言っているだろ。教師と生徒、ふたりきりの下校は禁止されている。

校則にだって書いてあるし、そもそも一緒に帰るつもりはない」

「柊先生……」

「ん?」

「ほんっと、ステキな声をしていますね」

心からの称賛の声に柊先生はガクッと肩を落とした。

「お前は本当に人の話を聞かないやつだな」

聞いているからこそ、声の良さにほれぼれしているのに……。
柊我音という名前は、彼以外にピッタリくる人はいないだろう。


「芽衣、また柊先生いじめてんのか?」

ふいにうしろから声をかけられて振り向くと、テニスウェアを着た乾(いぬい)和宏が呆れ顔で立っていた。
さっきまで話題に出ていた結菜の片想いの相手。かつ、私の友達。
二年間クラスが同じで、異性なのに不思議と気が合った。
色黒でサラサラの茶髪にくっきりとした目。
テニス部の副キャプテンに今月から昇格したらしい。

結菜以外の女子にもモテているみたいだけど、当の本人は部活が楽しいらしく浮いた話ひとつない。
結菜の恋が実るのはまだ先のようだ。