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警察署を出るころには、夜の七時を過ぎてしまっていた。
直樹が心配しているだろうから、急いで帰らなくちゃ。
正門を出たところで、

「よう」

暗がりから声がかかったので思わず身を小さくした。本当に驚いたときには声も出ないものだと知る。

「驚かせちゃった?」

その声がよく知っている人のものだと気づく。テニス部のウエアを着た和宏が塀にもたれて立っていたのだ。

「和宏? え、どうしたの?」

「何回も電話したのに出ないから見に来たんだよ」

ぶすっとした顔をする和宏。

「え、そんなこと……」

スカートのポケットからスマホを取り出して確認すると、さっきはなかった不在着信が数件入っていた。

「ほんとだ、ごめん。今終わったところでね――」

「俺さ」和宏が言葉の途中で口を開いた。いつもの飄々とした顔じゃなく、なぜかまっすぐに私を見ている。

「芽衣のことが心配だったんだ。親友が亡くなっただけでもつらいのに、ひとりで警察なんかに行かせて、って」

「和宏……」

「俺が一緒に行けばよかったのに悪かったな。つらかったよな」

私のことを心配して待っててくれたんだ……。
トクンと胸が音を立てたと思ったら、次の瞬間には鼻の奥が痛くなった。
あ、と思った時には涙がポロリとこぼれていた。

「ごめん。なんか、やっぱり緊張してたみたいでさ……」

急いで制服の袖で拭うけれど、涙はあとからあとからあふれ出してくる。
そんな私の背中に手を当てて和宏は泣き止むまで待ってくれた。

どうしてこんなにやさしいの?

いつもと違う雰囲気の和宏に戸惑いながら、それでいてお腹があたたかい。

「もう大丈夫。ありがとう」

そう言うと背中から外される手が、少しさみしかった。