わざと明るく手を振りながら近寄る私に、柊先生はギョッとしたあと落胆した表情を浮かべた。

「有川、か」

「そんな嫌な顔することないでしょう」

「嫌な顔じゃない。ものすごく嫌な顔してるんだ」

ぶ然と主張するので少々傷つく。
だけど、それくらいはスルーしないと柊先生と近づくことはできない。
“教師と生徒”という禁断の関係だけでなく、柊先生はクールすぎる性格で感情を見せないのだから。

そう、私は先生である柊我音(わおん)に恋をしている。
この春、高校二年生になった私は、赴任してきた柊先生に一目惚れしてしまったのだ。
スラッとした背の高さに似合うスーツ姿。
長めの黒髪からのぞく瞳はシルバーのメガネのせいで余計に鋭く見える。
二十五歳という年齢よりも、良い意味で年上に思えてしまう。

柊先生は英語の教師で、その薄い唇からはいつだって流暢な英語が音符のように生まれている。
我音という名前にピッタリだとますます好きになっていった。
元々苦手だった英語がこの半年で得意科目になったのは、柊先生によるものが大きい。
そのくらい、私の人生において最大級の片想いをしているのだ。