夕飯を食べて部屋にもどった私は、やることもなくベッドに横になった。熱を測ると、すっかり平熱に戻っていた。
ひとりの時間はどうしても沙希のことを考えてしまう。
直樹の言ったとおり、こうして沙希を思うことも少なくなってしまうのだろうか。それは、あまりにも悲しいことのように思える。
……ふと、私は大切なことを忘れていたことを思い出した。

「そうだ、あのとき……」

思わず声がでてしまう。
最後に電話してきた時、沙希はひどく元気がなかった。
そして、私に聞いてきたではないか。

『ENDAアプリにあるMOVERを見たか』と……。

ベッドから起きあがると、充電器に差したばかりのスマホを手に取る。
アプリを開くと改めてメニュー画面をじっと見つめた。

「あれ……」

そういえば、あの電話で沙希はなにか言っていなかったっけ?
大好きだったハスキーな声で、たしか……。

「そうだ……」

MOVERのメニューをクリックして動画の一覧を眺めながら思い出す。沙希はこのMOVERの画面のことについてなにか言っていた。

『そのMOVERのメニューにさ……。なんていうか、赤い画面がね……』

『赤い画面?』

『そう。濃い赤色でさ……。とにかく悪趣味なんだよ』

ハッと画面を見た。けれど、他の動画投稿サイトと同じようなデザインで、赤色の画面ではないことは明白だ。
投稿されている動画を見ても、前より少し多くなっている程度で悪趣味といったものはない。

「うーん……」

沙希はなにを伝えようとしていたのだろう。