「なんかさ……不思議なの」

静かに言葉を落とす私に、直樹はなにも言わない。

「大好きだった友達が死んじゃったんだよ。悲しくて悲しくてたまらないのに、なんだかもう涙が出なくなっちゃった。目が覚めるたびに、沙希が死んだことを受け止められるようになってる。それってさ……なんだか自分が冷たい人みたいな気がする」

沙希がいなくても続く毎日。
いつまでもすがっていたいのに、朝を迎えるたびに悲しみが癒えていく気がしていた。

「いいんじゃないか、それで」

ようやく顔をあげた直樹の顔にはやさしく笑みが浮かんでいた。

「そうやって、人は悲しみにも慣れてのりこえて生きるんだよ」

その言葉に重さを感じたのは、そう……昔、直樹の恋人も亡くなっていることを思い出したから。
恋人だったならどれほどに苦しかったのだろう。
私にはそんな様子おくびにも出さなかった。
妹である私に心配をかけないようにがんばっていたんだと思った。

私もそうやってやさしい気持ちで沙希とのことを話せる日がくるのかな。

それが正しいことなのかな……。

「……お兄ちゃん」

「ん?」

「私、やっぱり天ぷら食べるわ」

「そうこなくっちゃ」

なんだか久しぶりに笑顔になれた気がした。