三十七度二分。
あれから二日が過ぎた夜。これでもずいぶん熱は下がったほうだ。

「なんだかな……」

まだ寒気のする体をベッドの上でなんとか起こしため息をこぼす。
あの日の朝、三十九度という高熱を記録した私は、そのまま病院へ行き『風邪』の診断を受けた。
それからは大変だった。
まるで真冬のような寒さが体を襲うと同時に、ひどい頭痛にも悩まされた。
食欲が出ないまま布団をかぶり、スポーツドリンクを飲んでは汗をかき、またガタガタ震える毎日だった。
熱にうなされて見る夢には、沙希が何度も現れた。

夢のなかで彼女はまだ生きていて、だけどどこか元気がなくて、私は必死で話しかけていた。
夢から醒めると沙希に会えない現実世界が悲しかった。
窓からの景色に目をやると、すっかり日も暮れて外は真っ暗になっていた。
起きあがり窓ガラスに手を当てれば、外の景色は見えず、自分の顔が映っていた。
さっきまで沙希のことを考えていたのに、もう和宏の笑顔が頭に浮かんでいる。

「バカみたい」

つぶやく声は自分に向けて。和宏に恋をしたなんて思いこんでしまったけれど、どう考えても熱のせいだろう。
そもそも、結菜の気持ちを知っているくせにそんな感情を持ったと錯覚したことすら許せない。