夏休み明けの九月からは、一方通行の想いにひどく苦しんでいるのが伝わっていた。

一緒になって悩むよりも、なんでもないように言ってあげるのが結菜を安心させるためのセオリー。そもそも、結菜はまだ私に片想いがばれていないと思っているらしいし。

「そうかなあ。昼休みにふたりでなにか話してたじゃん」

「あれは私のお弁当を見て、『うまそう』って……。きっと私じゃなくてお弁当のおかずに興味があっただけだもん」


やれやれ、と宿題のノートをしまいながらも表情には出さないように気をつける。
ちゃんと元気づけてあげないと結菜は夜も眠れなくなってしまうだろうから。

「そんなことないってば。もしも結菜が大っ嫌いな人がいたとして、その人のお弁当の中身に興味を持てる?」

「私、嫌いな人がいないからわからない」

「そういうことじゃなくてさ……」と少し考えてから私は続ける。

「結菜に興味があるからこそ、和宏(かずひろ)はお弁当のことを話してくれたんだよ。朝のあいさつはたまたま聞こえなかったか、眠かったかだけ。どうせまたゲームでもしてて寝不足なんだよ」

そう言った私にようやく結菜の表情が柔らかくなった。