メリーゴーランドの電灯が点いて馬が動き出す。 俺たちはあまりに想定外のことに体が硬直してしまい動くことが出来なかった。

 なんで動いている? 
 作業員なんていなかったし、もう夜中の0時を過ぎている。こんなこと起こるはずないのに……。

 スマホを持ったまま口を開けて川田が驚愕の表情をしてるのが見えた。

 ああ、だからこんなところに来たくなかったんだ。ぐにゃりと歪むような独特の感覚が体を包んだ。


 気が付いた時、俺は白い馬に跨っていた。
 作りものじゃなくて本物の馬だ。周囲には5月人形みたいな鎧兜を身に着けた異形の奴ら。辺りに怒号が鳴り響き、弓矢が飛んでくる。なんだよこれ……。


「ヤマ、クロっ!!」


 俺は咄嗟に一緒にメリーゴーランドに乗っていた二人を探した。
 ヤマはすぐに見つかった。だって、飾りのついた白馬である俺らの馬は他の奴らの馬と見た目が明らかに違ったし、ヤマはすぐ目の前で異形の奴らに切りかかられるところだったんだ。


「ヤマ、危ない!!」


 俺が叫ぶのと同時にヤマは避けようとして落馬した。そして、うつ伏せに落ちたところを異形の奴に一突きに刺された。

 目の前が赤く染まる。飛び散ったそれが頬に跳ね、嫌な鉄の匂いがした。


「ひっ」


 ヤマを助けたかったけどそれどころじゃない。

 逃げないと殺される。
 乗馬なんてしたことなかったけど、俺は必死に逃げた。
 あいつらヤバい。マジで殺される。
 必死に馬を走らせている時に前方に白い馬が見えた。格好も異形の奴らと違うからきっとクロだ。俺は力の限り叫んだ。


「クロ! クロ!!」


 弓矢が雨みたいに降ってくる。
 クロ白いTシャツがみるみるうちに赤色に染まってその体が崩れ落ちる。

 嘘だろ??

 ヤマに続いてクロまで。
 本当に何なんだ。何とかして帰らないと。

 その時、俺はあることに気付いた。クロの馬がいない。あんなに目立つ白馬を一瞬目を離しただけで見失うわけがない。北野ドリームランドのコスプレ猟奇殺人……。
 俺はパズルのピースがはまっていくように一つの可能性に至った。


 辺りを見回して刀を握っている異形の奴めがけて自分から突進した。
 刀が振り下ろされる。ちょっとでいいんだ、急所を外してくれてさえいれば……。

 激痛と共にぐにゃりと歪むような感覚が包む。


 やった、帰れる。俺は帰れるぞ。








 ねえ、北野ドリームランドの猟奇殺人事件のこと知ってる?
 途中のコンビニの防犯カメラや生存者のカメラには確かに4人映っているのに、2人は行方不明、ひとりは刀みたいなもので頸を深く切られて馬の上でこと切れてたんだって。

 肝心の生存者の男の子はショックで頭がおかしくなっちゃったみたいで。
 それでね、なんでも発見された遺体の男の子、とっても嬉しそうに笑ってたらしいよ……。