「満足したか?」


しばらく無言でじっとカメラの中の写真を見ていた千穂に、啓は声を掛けた。


「私、先輩みたいに綺麗な写真を撮れるようになりたい!です」


千穂は敬語にするのを忘れて後付けしながらも、楽しそうな笑顔で言った。


「下の名前でいいよ、そっちの方が慣れてるから。名前、千穂だっけか。千穂はどんな写真を撮るんだ?」


啓はカメラの紐を首にかけながら聞く。


「私ですか?私は、空しか撮らないですよ」


千穂はそう言いながら換気をしていた窓の方に歩いていく。


「それは何か理由があるのか?」


啓は、窓の方に歩いていく千穂をじっと眺めて聞いていた。


「空が大好きなだけです!

空って綺麗なんですよ?私たちが想像するよりも、もっと凄い景色を見せてくれるんです。

そんな空が大好きなんです。その空を撮っていたい、ただそれだけですよ」



千穂は窓の手前にある手すりに腕を置き重心をかけた。


さっきまで明るい表情で話しかけていたはずなのに、千穂は夕焼け空を見てるようで、どこか遠くを見ていて

その姿が啓には、ほんの少しだけ千穂が大人びて見えた。


本当に一瞬、そう見えた。