なぜ謝ったのかは分からなかった。
彼女は謝ると、俺に背を向けてゆっくりと歩き出した。
「あ……」
月を隠していた厚い雲から、ポツリ、俺の頬を濡らすもの。それは徐々に強まっていったので、俺は急いで駐輪場の屋根の下に駆け込む。
歩いていく彼女は、傘をさす素振りを見せない。
もしかして傘を持っていないのだろうか。
「海斗ー」
見慣れた車の窓が開き、姉が俺の名前を呼ぶ。
俺はその声を聞き流して、どんどん小さくなる彼女の背中のほうを見続けた。
「何ぼさっとしてるの!早く帰るよ!」
「…あぁ」
姉に促された俺は、やっと小さな背中から視線をずらして車の扉をあけた。