【海斗side】


あの日は受験シーズンが終わり、同級生たちは結果を待つ前に、どこか緊張の糸が解れている雰囲気だった。


俺は残り少ない塾を終えて、建物の入り口で迎えの車を待っていた。



辺りは既に暗くなっており、沢山の車がライトを点灯させたまま道路の片隅に停車していた。



入り口の近くでは、自分の家の車はどれかと探すものや、電話をしてどこにいるか確認している声が聞こえてくる。




多分に漏れず、俺も入り口の横に立ち、イヤホンで音楽を聴こうとしていた時だった。



「あの……っ」



その声は、他の人達の笑い声にかき消されてしまうんじゃないかと思うくらい、か細くて小さいものだった。



その声に俺は、イヤホンを耳にかけるのを止める。



「どーした?」



身長が小さな彼女にあわせ、聞き取りやすくするため少しだけ膝を曲げた。



俺の周辺にいた奴らは、迎えの車を見つけたのか、気が付けば入り口の近くにいたのは俺と彼女だけになっていた。



「好き……です。だから……その、付き合ってくれませんか……?」