僕らの声は、聞こえたか。



「美空~早く早く!」


正門の前で大きく手を振っているのは莉奈だ。

大地と二人、手を繋いで走り出す。


「やーっとくっついたか!」

「おせぇんだよお前達は」

「美空、ごめんね。あたし二人が両想いって知ってたの。だけどそれじゃあ二人のためにならないと思って言わなかったの・・・」


そうだったんだ・・・。

だから莉奈はバレンタインのチョコ渡せ、とか言ってたんだ。



「もう、いいよ莉奈。ありがとう」

「久しぶりの5人だな」

「1年ぶり?」

「誰のせいだよ」

「皆のせいだろ」




春風が頬を撫でる。

この学校には、生徒はもういない。私達だけだ。



「せっかく5人が揃ったのに、もう卒業か・・・。この校舎ともお別れだ」






日向君の言葉に全員が後ろにある校舎に視線を向ける。雨に打たれても強い風が吹いても、どんな日も変わらない姿で、変わっていく私達を見守ってくれた校舎。




5階の窓のカーテンがゆらゆらと踊っている。



ボロいなんて、汚いなんて、いつも言ってごめんね。



いつも、いつも――――私達を守ってくれてたね。




私達の青春をいつも見守っててくれたこの校舎には、宝石にも負けないぐらい輝いていた思い出が詰まってる。




涙が頬を伝う。

どうしてだろう。

3年間の片想いが実ったのに。

バラバラになって5人がまた揃ったのに。





悲しくて仕方ないんだ。



「みぞらぁぁ~」

「やだよぉ~っ」



もっと5人でいたかった。

もっと日向君と一緒にいたかった。

もっともっといろんな事をしたかった。




狭い教室で笑いあうことも

広いグラウンドを走り回ることも

長い校長先生の話を聞くことも



もう、ないんだね。



「まだ、ごごにいだいよ~っ」



いつだってそうだ。

時計の針はいつだって、私達を置いて進む。




「もう、俺達は高校生ではいられない・・・んだな」




その言葉に更に頬を伝う涙。葉月君の言葉に改めて思い知らされる。



ダサくて着崩した制服も、落書きだらけの上履きも、お揃いのストラップがついたスクバも―――。



もう、手放さなきゃいけないんだね。




「だけど、俺達の思い出は消えねぇよ。ずっと、ここに残ってる。そりゃ楽しいことばっかじゃないし、遠回りした俺達だけど、」


「う゛ん・・・っ」


「いろいろあった青春のほうが、振り返った時に楽しいだろっ!」


変わっていくものはたくさんある。

だけど、変わらないものがここにある。


少し大人っぽくなったはずの5人の―――。



子供のような無邪気な葉月君の笑顔。

笑うと目が細くなる平松君の笑顔。

いつも隣で見てた安心する莉奈の笑顔。


太陽みたいに笑う日向君の笑顔。




5人の、笑顔だけは出逢った頃と同じ輝きで、それがなんだか嬉しかった。




「俺達が思い出す“あの頃”は皆同じ“あの頃”だ。寂しいことなんかない。だから、進もう」



莉奈が涙を拭う。私も同じように、制服の袖に涙をしみこませる。




「5人で手をつないで、『せーの』の合図で一緒に超えよう」




日向君がもう一度私の手を強く握り、無理やり校舎に背を向けさる。平松君も同じように莉奈の手を引いた。







「え、俺どこ入ればいいの?」






こんな感動のシーンなのに、笑いをとる葉月君はさすがだ。


「しょーがねーから俺が手をつないでやるよ」

「えー大地君と手を繋ぐとか照れちゃう」

「お前らはホモか」

「「全力でやめろ!」」



暖かい笑いがその場に広がる。変わらない笑顔が、私達の門出を彩る。


「しょうがないな~健人!あたしと美空の間に入りなよ」

「ほら、葉月君。手」

「二人がどーしてもって言うなら繋いでやるよ」

「なんですってぇ?じゃああんた一人で正門くぐりなさいよ」

「わ~!嘘嘘!繋がせて下さい!!」


あははっ、って。

馬鹿だー、って。


“高校生の私達”とは、お別れ。



もう二度と戻ることはできないけれど。

もう二度と戻ることができないからこそ。



高校3年間という長くて短い時間は、愛しい日々となる。

静まり返るそこ。

心の準備が追いつかない。





――――ねえ、行かなきゃだめなの?

――――ねえ、まだここにいたいよ。







思えば思うほど涙が溢れ出る。

もう一度、背を向けた校舎を振り返り見る。4人も釣られてもう一度振り返った。


強い風が、吹いた。

まるで前を向け、と言わんばかりの追い風。


「…」



『がんばれ、私っ!』


どこからか、自分の声が聞こえた気がした。

それはあの日――――屋上で見ていた花火に願った声――――。


「……」



私達が作り上げた青春の轍(ワダチ)。

どうか消えないで、私達の道しるべ――。





「それじゃあ、行くぞ」



日向君の言葉に5人の結ぶ手に、力が入る。





思い出の校舎に、

着慣れた制服に、

大好きな仲間に、






あの日の私たちに、


別れを告げて。





―――――大丈夫だよ。

―――――いってらっしゃい。






「せーのっ・・・!」







青春の日々が、5人の背中をそっと押した。










1 青春恋愛部門への応募



あらすじ

美空と大地は廊下でよく目が合う関係だった。次第に近づく2人の距離。きらめく青春のど真ん中で、当たり前の毎日が続いていた。しかし、小さな歯車のズレが、次第に2人の距離を引き裂いていく。今の関係に甘え続けた2人は、互いの気持ちに気付いているのに、伝えることができないままだった。子供だけど大人。大人だけど子供。曖昧な世界にいる彼らがみた初恋の結末は?

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